みなさん、こんにちは!

23 Sept の小松あろはです。現在はMiddlebury Institute of International Studies (MIIS)の2年生でTranslation and Interpretationを専攻しています。

本日、私は夏休み中のインターンシップを通して、現在の社内通訳について感じたこと、そしてそれが現在執筆中の修士論文(以下修論)にどのように関わっているかについてお話したいと思います。

まず、前提として、MIISの卒業に修論の執筆は必須はなく、書く人はほとんどいません。そんな私がなぜ、わざわざ修論を書こうと思ったのか。それは2024年の夏に遡ります。

インターンシップでの経験

MIISで1年生が終わった後の夏休み、私はある、ファスト・フード・チェーンの本社で通訳のインターンをしていました。MIIS卒業後は日本の企業で社内通訳者として働きたいと考えていた私は、緊張と期待に胸を膨らませながら出社しました。

本社には4人の社内通訳者が在籍していました。そのうちの一人が私に教えてくれた仕事内容は、1時間から1時間半の会議を基本的には一人の通訳者が対応するというものでした。全員が「会議を一つ担当するだけですごく疲れる」など、何かしらの愚痴をこぼしていましたが、上の人に意義を申し立てる気はないようでした。私はICUで、AIICなどの国際機関が定める倫理規定を勉強していたので、一人で1時間の会議を通訳し続けるというのは無謀のように感じました。そして、つい、初日にもかかわらず、おこがましく「でも、AIICの倫理規定で、同通の場合、一人30分と決まっていますよね?」と言ってしまいました。すると、その場にいた社内通訳の一人が、「AIIC?何それ?」と聞いてきたんです。聞いてきた方以外も、AIICの存在を知らず、名前も聞いたことないというリアクションでした。通訳者なら誰でも知っていると思っていた団体だったので、正直、驚きました。

また、施設案内をしてくれた方は、私に通訳者専用のブースを見せてくれたとき、「前職では通訳用のブースなんてなかったから、この会社はすごく通訳に理解のある会社だ」と鼻高々に教えてくれました。しかし、「通訳ブース」と呼ばれていた小部屋は、通訳用の機材があるわけでもなく、会議室からも離れた、ギリギリ人が一人入れるくらいの部屋で、バディを組んでの通訳は想定されていない部屋でした。

インターン期間中、会議に同席して、実際に通訳機で通訳を聞く機会がありました。会議の後半に差し掛かるにつれ、疲弊してきた通訳者の声に加え、話し手によって訳出の質にばらつきがあることに気づきました。後で通訳者に話を聞くと、ハイブリッド会議のとき、通訳者はZoomで入り、対面で参加している人の声は会議室の真ん中にある、たった一つのマイクが拾っているとのことでした。つまり、話し手の声質や、マイクからの距離によって聞こえやすさが違っており、通訳の質に影響したんです。また、ハイブリッドのとき、対面の人は通訳機を使っており、オンラインの人はZoomの通訳機能を使っているため、通訳者は言語が変わるたびに、通訳機とZoom両方の設定を一瞬にして変えることが求められていました。私が見学した会議の一つで、通訳者が間違って違う言語チャンネルに話してしまったことがあります。英語話者が話しているときに、日本語が通訳機から聞こえず、社員の一人が苛立ちを隠せない様子で、「通訳聞こえませんよ!」と声を荒げているところを目撃し、少し怖くなりました。

経験から得た修論のアイディア

2ヶ月しか働いていないこの会社で、私は社内通訳の扱いについて興味を持ちました。一つの会議で疲弊している通訳者は1日にいくつも会議を担当しなければならず、ときには、様々な機械を扱って訳出に全集中できない環境にいます。そんな状況にもかかわらず、「自分の会社は通訳に理解がある」と信じ、意義を申し立てずに毎日出社している通訳者を目の当たりにしました。すると、そもそも社内通訳者は、自分達に与えられている権利を知らないのではないか、という問いが浮上しました。通訳を雇う側の教育(client education)に加え、通訳者自信の教育(interpreter education)の需要を感じました。ただ、難しいのが、AIICの倫理規定が社内通訳にそのまま適応できるわけではないということです。AIICが「同通の場合一人最長30分」と定めている規定は、国際レベルの会議の場合です。対して、社内に在中している通訳者は、社内で起きていることを常に把握しており、毎週行われている会議ともなれば、前回の内容を踏まえて、次に何を話すか、ある程度予想がつきます。つまり、同じ「30分」でも、AIICが対象としている会議通訳者と、社内通訳者では疲弊度が違うのです。「30分」という数字に囚われた考え方が安直だということを痛感しました。

そこで、私は、現在通訳業界に存在しているガイドラインを調べました。すると、法廷通訳や医療通訳、会議通訳には国際規模のガイドラインが存在していることがわかりました。しかし、「社内通訳」用のものはいくら調べても見つかりませんでした。それもそのはず。「社内通訳」と言っても分野が違えば倫理規定や、会社が通訳者に求めるものが違ってくるのは当然です。でも、共通するものもきっとあるはず。そう考えた私は、社内通訳者がどのような悩みを抱えているのか、働いている職場に仕事内容や権利が明記されたガイドラインが存在するのか、などを調査することにしました。そして、最終的には、複数の社内通訳者の共通した悩みを解決し、かつ自分の会社用にカスタマイズできる、そんなガイドラインの大枠を作製できればと思っています。

修論を通して、社内通訳者が自分の権利を理解し、会社から対等な扱いを受け、誇りを持って働く手助けができればと思っています。

長文ですが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。